『異邦人』 半村良 祥伝社

異邦人 (祥伝社文庫)

半村 良作,祥伝社 NON POCHETTE文庫,『異邦人』(『超常領域』を改題した模様)を読了しました.
以下,適当に書き残します.

 

主人公(野渕三郎/吉沢啓介)が恰好良い.

吉乃はどうだろう,守ってあげたくなるような,でも芯がしっかりしていて一緒に居たくなるような人かもしれない.

初盤は訳ありな主人公が生活を始める話.
選挙違反というのはどういう訳なのかよく分かってない.
支援金をもらったとかだろうか.
主人公が逃避旅行をすることで違反が解決するのも分からない.
時事問題等々,私が現代社会や公民には明るくないせいかもしれない.
私が覚えていないだけで,小説内で説明があったかもしれない.
井須賀市の描写がある.
非常によく出来た,完成した街だと感じた.
こういう都市があるなら是非とも暮らしてみたい.
主要な店は全て地下にあり,利用頻度の低い公共の建物や銀行などは地上にある.
地下道は広く,また全て繋がっており,現実の商店街が丸ごと地下にあるような感じと想像される.
地上では循環バスが走っている.
確か,低価格の一律料金か無料だったような気がする.
推奨されなくても利用したくなるような制度になっていた.
ゴルフその他のスポーツはよく分からないけれど,統括されていてやりやすそうだな,とだけ.

中盤は亜空間に閉じ込められた話.
愈々SFらしくなってくる.
物理学寄りの設定.
簡単に,井須賀市から出られなくなり,勿論,入ることも不可能な空間に閉じ込められる.
亜空間の説明で速度の話が出てきて,主人公も聞いているのだが,それをすっかり忘れている(?)ために終盤で体感速度の違いに気付いている.
亜空間に閉じ込められる場合,物がなくなっても任意の時間経過後に元通りになっている設定と,正しく消費していく設定に分かれるが,この作品は後者.
従って食糧を引き金として,権力(食糧)争いが開始する.
p.242の以下の科白が美しいと思う.

「ひょっとすると、これが人類の最初の愛の誓いだったのかもしれないな」

 

「俺は吉乃を食わないと誓う」

 

「あたしだって、あなたのお料理のしかたなんて知らないわ」

終盤はカニバリズムの話.
山で隠れている内に人間の肌の色が,赤・黒・紫(・金・桃)に変わっている.
朝顔の色の描画が山に辿り着く途中にあるから,その色と関係しているのかなと思いきや,そうでもなかった.
金・桃はさておき,赤<黒<紫の(社会的な階級と言うより,生物的な)階級が完成して,均衡を保っている.
同じ人間だけれど,下位は家畜扱い.
カニバリズムでどの階級がどの階級を食べるかはお察し.
円錐の底面を上に(砂時計の上半分のような形)して水が回転しているのって,形だけを作ってるんだろうか.
周りに水があるなら渦巻の気もする.
勿論,最後は脱出する.
そこでは市街戦で死んだ人(会社)が存在している描写がある.
生き残っていた人達がそのような形で元の世界と調和したのか,生き返ったのかは不明.

 

主人公,恰好良いんだけど,最後の場面で愛を確かめ合ってるのだけはちょっと微妙だった.
もっとこう,自信がある方が良いのかもしれない.
あるいは,どちらかに飛び込んでほしかったのかも.
もう一人が手を伸ばして掴むかどうかはどうでもいいけれど,もう一山ほしかったのかな.
でも,愛を訴える話ならそのままがベストな終わり方と言える.
リア充爆発しろと同じだけの気がしてきた.
吉沢啓介という名前が最後の最後に出てきたから別の小説と繋がっているのかと思ったけれど,検索してみたところ,違うようだ.
吉沢吉乃って吉が二つ付くなあと思ったことは内緒.

 

大きなテーマが複数あって良かった.
よく読むSFではその現象の解明に流れることが多いせいもあるだろうが.
あと,すごく古い作品みたい.
知らない作者さんだった.
ただしwish-listにこの作者さんの他の作品が入っていたので合うらしい.